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FIREを目指す前に読むべき小説。羽田圭介の「Phantom」

最近、本屋で手に取ったのが羽田圭介さんの「Phantom」という小説です。
羽田圭介さんといえば、芥川賞の受賞後「バス旅」などでテレビ出演していますね。

小説家としての羽田さんは、かなりニッチな作品を描いているように思います。
以前、著作の「スクラップ・アンド・ビルド」という小説を紹介しました。


余談ですが、私が羽田作品のなかで一番衝撃を受けたのは「メタモルフォシス」という短編小説集です。
SMを通じて人間の本質を探っている真面目そうな作品ですが、思わず笑ってしまったシーンがあります。

そして、羽田さんの新刊「Phantom」では、早期退職という生き方をぼんやり考えました。

FIREとは自分の分身「配当マシーン」を作ること。

最近、「FIRE」という言葉がもてはやされています。
「FIRE」とは「Financial Independence Retire Early」の略で「経済的自立を達成して早期退職を目標とする生き方」のことをいいます。

この小説では、「FIRE」の生き方をこのようにとらえていました。

元本となる種銭を貯めまくって、その元本を高利回りで定期収入を得る一種の配当マシーンをつくること」。

つまり「自分の経済的分身システムを構築すること」です。

自分の代わりにもう1人の自分マシーンがお金を稼いでくれて、働かなくても生活ができる環境を目指すのです。

「パーマン」にでてくる「コピーロボット」みたい。
うらやましい……

ただ、もう一度立ち止まって考えましょう。


「本当にFIREが人生にとって最適解なのか?」


老後のために送りバントしながら生きている人たち

この小説「Phantom」の主人公「華美」も多分に漏れずFIREを目指します。

現時点で保有しているのが時価総額1,600万円分の株式投資。
これを5,000万円までのばし、年間250万円のキャッシュフローが目標ということです。

そして、華美の打算がすごいのです!

小説の冒頭から強烈な印象を残す描写があります。

友人の結婚式の2次会に参加するかどうかを決断するシーンなのですが、この試算がすごいので以下引用します。

女性の会費7,000円。ここ千葉から東京までJR線と東京メトロを乗り継いでの交通費概算が往復2460円。
3次会にも参加することになった場合の費用を3000円と仮定する。合計12,460円。
そして使うかどうかを自分で選択できるその金額に対する計算式が立ち上がる。

便宜的に10,000円で計算するとして、それで配当利回り5%の高配当米国株を買えば円換算にして1年で500円の配当金がもらえる。それを元手の10,000円に足しての配当を計算、つまり配当金再投資による複利運用をし続ければ10,000円が10年後には16,289円に20年後には26,533円、30年後には43,219円になっている。

また配当金増額を見込み、長期的観点から配当利回り7%で計算し直すと10年後には19,672円、20年後には38,697円、30年後には76,123円となる。

〜略〜

今の10,000円が30年寝かしておけば7倍以上になる。
30年後ー62歳になった頃に彼女との友情は続いているか?
未来の76,123円と、続いているかわからない友人とのつながりのどちらを取るか。

長期的な視点で考えると、これはすごく合理的な考えです。
たしかに30年後に今の友情が続いている保証はないですよね。
それよりも、結婚式に参加するお金を貯金に回して確実にお金を増やすほうが得です。

今の楽しみを犠牲にして将来のお金を優先する。
私はこれを「人生の送りバント」と呼んでいます。

今を犠牲にしながら、将来老後のためにコツコツとお金を貯めるという人生です。

この生き方がいいのか悪いのかはわかりませんが、自分がこのような生き方をしていることに気づくことも大事だと思います。

ちなみに私は「Die with Zero」という本を読んで、送りバント的な生き方を反省しました……

このシーンの華美も当然ながら、未来の76,123円をとります。
ただ、物語の後半からこのような守銭奴的な思想が少しずつ変わっていくことになるのです。


人生は金と時間のトレードオフである

「FIRE」には最大の欠点があります。
それは、健康である若い時にお金がなく、心身が弱ってくる老齢期にお金があるということです。つまり、若さとお金を両方得ることができない「トレードオフ」の問題が発生するのです。

この小説でも次のような描写があります。

数十年後無事に大金を手にできたとしても、足腰がダメになって旅行もできず、持病で美味しいものも食べられない身体になっているかもしれない。つまりは若いうちに大金を手にして、人生を謳歌しなければ何の意味もないと言うことになるが、たとえ大金を手にしたとしても、華実は自分が豪遊などせず優良配当銘柄の株を買っている姿しか思い描けなかった。


「FIRE」の真髄は、お金と時間とのトレードオフを解消できるかどうかにあります。

ただ、最近思うのはこのようなトレードオフがあるだけまだマシかもしれない。
たとえば、若いときにFIREを目指してお金を貯めていても、急激なインフレによってお金の価値が毀損してしまったら?

お金も若さもない人生の後半期を迎える可能性があるのですね……

なぜみんなFIREを目指すの?

最近、私は不動産投資を実践している方々と会うことがありましたが、「会社員卒業を目指す」ことを目標としているかたが大半です。

かく言う私も、不労所得を得て会社に縛られない人生を送りたいと切望しています。

ただ、将来のために今の生活を犠牲にしながら老後資金を貯めることが最善の策か?

お金は頑張れば稼げますが、「今」という時間は決して戻らないのです。

「人生の送りバント」をしながら「FIRE」を目指すべきでしょうか?

人生の核心を突く問題ですが、この小説を読んで考えてみるのもいいですね。


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この記事を書いたのは私です

ケンタ
ケンタ
1級ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士。
【経歴】1977年兵庫県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、多種の業界で管理部門をほぼ経験しました!(IT、経理、経営企画、財務、人事、マーケティング)
【得意分野】人生設計やプラン作成、分かりやすく説明したいです。
【趣味】カフェめぐり(日本全国のスタバ旅など)グルメ、ストイックな勉強。

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