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なぜ「危険負担」は35条に記載しなくてもいいのか?【宅建士必須】

宅建士試験で最大級ミステリーと言われているのが「危険負担」です。
35条と37条の問題で頻出の問題ですね。
そういえば去年も「危険負担」が謎と思っていました。

ちょっと過去問を見てみましょう。

(問題33)
宅地建物取引業者が行う宅地建物取引業法35条に規定する重要事項の説明に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、説明の相手方は宅地建物取引業者ではないものとする。

4)建物の売買の媒介を行う場合、天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容について説明しなければならない。

平成29年本試験より

この選択肢の解答は「×」です。

いわゆる「危険負担」に関する問題なのですが、重要事項説明の内容には含まれていないんです。
個人的にはめちゃくちゃ不思議なんですよ。

「普通に説明するべきでしょ?」と思うのですね。

なぜ「危険負担」が35条に記載しなくてよいのでしょうね?        


そもそも「危険負担」とはなにか?

前提として「危険負担」について述べておきます。
宅建士の試験では頻出なのですが、Wikipediaによるとこのような説明がありました。  

危険負担とは、双務契約において債務者の責めに帰すべき事由によらず債務が履行できなくなった場合に、それと対価的関係にある債務も消滅するか否かという存続上の牽連関係の問題である。

Wikipediaより


難しいので、ちょっと例を出します。

AさんとBさんがいて、AさんがBさんに家を売るとします。
この場合、Aさんは家を引き渡す義務が生じ、Bさんは代金を支払う義務が発生します。

ところが、AさんがBさんに家を引き渡す前に地震のために家が全壊してしまいました。
このとき、Aさんに責任はないです。もちろんBさんにも責任はありません。

さあ、このような場合に責任問題はどうするべきかというのが「危険負担」の問題です。

 

「特定物」の場合は買主の負担になるという恐怖。

この問題を端的に言いますね。

民法では目的物が「特定物」かどうかによってルールを使い分けています。
つまり、他に替えのきかない「特定物」の場合は買った人が「危険を負う」とされるのです。

 

参考著書:弁護士が教える分かりやすい「民法」の授業 (光文社新書)  


上記の例で言うと、目的物が「家」という「特定物」なので、購入したBさんが危険を負うのです。
これ、かなりの悲報ですよ。

手に入るはずの家が全壊した上に、Aさんに対する金銭債務も消えませんから。
踏んだり蹴ったりですよね。

特約があれば別ですが、民法ではこのような解釈になります。

危険負担ってめちゃくちゃ怖くないですか?

知恵袋のアンサーがあまりあてにならない。

気になりすぎたので、Googleで検索して調べてみたのですが、あまりパッとした解説がないんですよ。
Yahoo!知恵袋ではこのような回答がありました。  

1️⃣37条書面に記載するから。
2️⃣「契約の解除」が重要事項説明で義務づけられており、危険負担も兼ねている。
3️⃣気にするな。丸暗記して試験に受かりさえすればいい。

 

うーん。
個人的にはどれも納得できないんですよ。

3️⃣は論外。
2️⃣はなんとなく理解できるのですが、1️⃣の37条書面に記載するから不要というのがあまりピンときていません。  

というか「37条書面に記載するから危険負担について説明しない」というのは酷ではないですか?

「事後に通知するだけでいいでしょ?」という考えですよね。
37条書面は説明義務もないので、不動産を購入する人は危険負担について知らないという人もいるのではないでしょうか?  
くどいようですが、契約成立してから引き渡しまでの間に火災や地震などで不動産が滅失した場合、原則として買主がリスクを負うことになります。  

そういう重要なリスクについては契約前に説明するべきではないですかね?  



「危険負担を35条に記載しなくてよい理由」を考えた

宅建士試験に合格するだけの目的であれば丸暗記でOKです。

でも気になりませんか?
こんなに重要な項目なのに重要説明事項で取り扱わないなんて。

私の勝手な解釈では2つの理由があると見ています。  

1つは国や不動産業界の意図。
危険負担の説明義務が生じると消費者に「過大な不安感」を与えることになりかねません。
家という大きな買い物をする上に事前の不可抗力によるリスクも背負うことになりますからね。

そうなると不動産を購入することがよりリスキーに感じてしまい、不動産の消費意欲が薄れてしまうかもしれません。  
だから、起きるかどうか分からないようなリスクの説明をあえてしなくてもいいじゃないかというのが一つの理由かもしれませんね。
わざわざ景気を悪くするようなことをしなくてもいいじゃないかと。  

二つ目の理由。
もはや「危険負担」が「一般常識」と見なされている点です。
35条の内容に含まれないので、不動産を購入しようとする人は危険負担について説明を受ける機会がありません。  

ひょっとしたら「義務教育を受けた成年者であれば危険負担については知っているでしょ?」という前提がひそかにあるかもしれません。

今まで学校の授業で「危険負担」をメインとした法律を勉強したことはないのですが……しかし、もはや知らないでは通じないのです。
残念ながら、不動産を購入する前には「危険負担」くらいの知識を持っていて当然なのかもしれません。

そしてもう一度言いますが宅建業者はリスクについて説明してくれません。  


まとめ:危険負担は一般人も知っておこう

ほとんどの宅建士受験生は丸暗記でしょう。
35条と37条の記載事項を試験直前に覚える人が多いでしょうね。

しかし、危険負担については宅建士受験生ではなく、不動産購入者やビジネスに従事する人全てが知っておくべき内容だと思います。

たとえば業務委受託契約書などの契約書にも「危険負担」についての項目がありますし、このリスクを認識しているかどうかで意思決定に違いも出てきます。  

ということでまとめると、

35条には危険負担記載義務はないことを一般常識としても知っておこう。  


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この記事を書いたのは私です

ケンタ
ケンタ
1級ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士。
【経歴】1977年兵庫県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、多種の業界で管理部門をほぼ経験しました!(IT、経理、経営企画、財務、人事、マーケティング)
【得意分野】人生設計やプラン作成、分かりやすく説明したいです。
【趣味】カフェめぐり(日本全国のスタバ旅など)グルメ、ストイックな勉強。

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