今週、新庄耕さんの「地面師たち」という本を読みました。
非常に面白かったので不動産業者だけでなく、万人におすすめしたい。
概略を説明すると、地面師たち5名が不動産詐欺を行うというストーリー。
地面師の視点から詐欺取引の場面を描いているのでとてもスリリングな臨場感を味わえます。
なかでも目をひくのは大物地面師の「ハリソン山中」なんです。
彼の冷徹ぶりにちょっとひいた部分がありますが、それは小説を読んでみて感じてみると面白いです。
さて、この小説を読んでいてふと思ったのが「詐欺師の世界から資本主義の仕組みを学べるではないか」ということです。
ネタバレしない程度に話をすすめます。
この小説には2回の詐欺シーンが出現します。
それぞれに見どころがあるのですが、私が注目したのは「地面師メンバーの取り分」なんですよ。
「地面師たち」では以下の5名がメンバーとなっています。
詐欺に成功したら莫大なお金が入ってくるのですが、5人いるから5等分というわけではないのです。
2回の取引を別々にみていきましょう。
まず最初の取引は以下になります。
マイクホームからだまし取った7億円あまりのうち、3億円が首謀者であるハリソン山中にわたり、最も逮捕リスクが高い交渉役の拓海と後藤が1億円ずつ、応援部隊などの手配をした裏方の竹下が1億5000万円、麗子が5000万円、資金洗浄を経てそれぞれの架空口座に振り込まれていた。
「地面師たち」
それぞれの取り分を勝手に計算してみると、このようになります。
●ハリソン山中➡️3億円(42%)
●拓海➡️1億円(14%)
●後藤➡️1億円(14%)
●竹下➡️1億5000万円(21%)
●麗子➡️5000万円(7%)
これをみると、取り分がいびつなことが分かります。
ハリソン山中の取り分が42%とすさまじく高い。 フロントエンドで詐欺現場に出ている拓海と後藤がなんと14%の取り分しかありません。 さらに裏方の竹下が50%増しなんですよ。
この配分すごいな、と思いますが、もっと驚いたことがあります。
逮捕リスクが一番高い「なりすまし役」のササキの配分です。
なんとササキには300万円の報酬しか用意されていないのですよ。
詐欺師が受け取る全体の報酬からみるともう端数レベルですよね。
もう一つの取引も見てみましょう。
今回の案件の取り分は仮に100億円入ってきた場合、ざっくり40億円がハリソン山中に、30億円が竹下に、拓海と後藤がそれぞれ12億ずつ、麗子が6億円となっている。
「地面師たち」
2回目の詐欺シーンが本書のみどころですが、あえて配分比率に注目してみました。
上記の一回目の配分レートとほぼ変わらないですね。
ハリソンが4割程度もっていきます。拓海と後藤も12%。
ここでも注目すべきは末端のなりすまし役であるタニグチの配分。
当初予定していたタニグチの取り分がなんと300万円なのですよ。
ハリソンの搾取ぶり、すごくないですか……。
現場に出ずに首謀者というだけで40億を取るという。
でも、これ誰かと似ていませんか?
私が思ったのは 「地面師の世界ってさながら資本主義そのものだな」と。
地面師の世界では「首謀」するだけで収益の4割もふんだくれます。
資本主義の世界でも「経営」するだけで収益の多くをふんだくれます。
もちろん、いろいろな責任やリスクはとらないといけないでしょうが、現場でのリスクとは比較にならないですよね。
拓海や後藤は前線に出て、いつ逮捕されるかわからないギリギリのラインで戦っています。
なのに取り分は1割程度。
さらに、もっと末端の「なりすまし役」になると誤差レベルの報酬ですよ。
この格差たるや……。
会社員生活を重ね合わせると、会社員というのは「ササキ」や「タニグチ」なんですよね。
つまり、会社という組織の「なりすまし役」なんですよ。
人生という時間を捧げているのに受け取る報酬は「端数レベル」。
一方、社長はさしずめ「ハリソン山中」です。
会社経営という「首謀」をすることによって収益の多くを取り分として財布に入れることができます。
この小説を読んでどう思うかは人それぞれでしょうが、私は「資本主義ではハリソン山中を目指さないといけない」という感想を覚えました。
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個人事業主だと搾取する下っ端がいないけど、搾取されるわけではなく、稼いだ分は全部自分のものだから、個人事業主で生きていくのもありですね。会社経営者という大きな山を目指すのもありですが、宅建業やるなら、個人事業主でやりたいかなと私は思いました。