最近、読書に集中できる時間が増えました。
最近は小説も読んでいなかったのですが、久々に読みごたえのある小説に没頭しました。
白石一文著「一億円のさようなら 」です。
カバーを見ると、著者である白石さんがこのようなコメントを残しています。
「この2年間、ぼくはこの作品をおもしろくすることだけ考えてきた。これで直木賞を取りたかった」
白石さんは「ほかならぬ人へ 」で直木賞を受賞していますが、この「一億円のさようなら」への想いもなみなみならぬものがありますね。
表紙に記載しているあらすじはこのように書かれています。
加納鉄平は妻・夏代の驚きの秘密を知る。いまから30年前、夏代は伯母の巨額の遺産を相続、そしてそれは今日まで手つかずのまま無利息口座に預けられているというのだ。結婚して20年。なぜ妻はひた隠しにしていたのか。そこから日常が静かに狂い始めていく。もう誰も信じられない。鉄平はひとつの決断をする。人生を取り戻すための大きな決断を。夫婦はしょせん他人か?お金とは?仕事とは?めくるめく人間模様を描く、直木賞作家・白石一文、文句なしの最高傑作!
あらすじだけで読みたい気持ちを惹起させますね。
少しネタバレになってしまいますので、以下ご注意を。
上記のあらすじでもあるように主人公の妻・夏代が莫大な遺産を相続します。
しかし、夏代はその事実を夫である鉄平にずっと隠したままにしておきました。
その理由は小説の中にあるのですが、結果的に夏代は遺産の一部である1億円を鉄平に渡します。
このように「1億円という大金を手に入れる」というシチュエーションはいろんな小説でも出現しますね。
ふと思い出したのは、佐藤正午の「身の上話 」。
「身の上話」は主人公のミチルが宝くじ1等に当選して2億円を手に入れるという内容でした。
かなり衝撃的な内容でしたね。
8年前に読みまして、大金を持つことの是非について考えさせられました。
さて、目の前の一億円で一体何ができるだろう?昨夜、寝床に入ってずっと考えていたのは会社を辞めることだった。ここのマンションのローン残高は大した金額ではないし、一億円あれば一生働かずに何とか食っていけるのではないか?月に三十万円の生活費だとしても一年あたり三百六十万円。三十年近くはやっていける計算になる。三十年経てば鉄平も八十過ぎ。もうこの世にはいないだろう。
でも、私は1億円を入手しても会社は辞めませんね。
とりあえず家を買います。
大金を手に入れたらどうするかは人によって違いますが、自分の優先順位を確認できるので、一度自分に問いかけてみましょう。
「1億円を手に入れたらどうしますか?」
内容についてはぜひ小説を読んで欲しいのですが、第二部からが面白くなってきます。
第一部はやや紹介的な文章が多いイントロダクションなのですが、第二部からついに鉄平が動き出します。
家族を捨てて、金沢で事業に成功する鉄平。
1億円を手にしているうえに、トントン拍子に事がすすみますが、最後に「そうきたか」という展開になります。
まさに本文の99%は最後の2ページのための伏線にすぎません。
決して読後感は悪くないですね。
そういえば、上述の「身の上話」でこのような文章がありました。
お金はお金でしかありません。
お金は何か他のもの、あなたの人生を幸せにするものに換えてこそ価値を持つものです。
「1億円のさようなら」はこの意味をかみしめる小説となっています。
時間があるときにちょっと読んでみてはいかがでしょうか?
余談ですが、この小説では「世界一美しいスタバ」と呼ばれている富山の環水公園スタバが登場します。私は3年前に「スタバ旅」で訪問しましたが、小説に出て来ると感慨深いものがありますね。