タイトルを見て「おいおい大丈夫か?」と思ったかたもいるでしょう。
ようやく行政事件訴訟法の肝心かなめである「義務付け訴訟」と「差し止め訴訟」のちがいが分かったのですよね。
おいおい大丈夫か?
1年目は条文を読んで、なんとなく理解していたつもりですが、理解が浅かった!
2年目にやっと時間をかけて考える。
そもそも行政法は、日常生活で接することがほとんどないため、なじみがなくイメージがつきにくいです。
「カバチタレ」でイメージを把握することもできますが、「義務付け」や「差し止め」などのピンポイントは書物だけでは難しいですね。
参考記事:【独学で行政書士】「カバチタレ」17巻は「行政不服審査法」の入門書だ!
初学者や独学者のかたにとって、「義務付け訴訟と差し止め訴訟がどのような場合に用いられるか」は意外と知らない人も多いかもしれません。
今回、自分の理解を共有します。
つぎの問題を解いていた時に、混乱が生じました。
AはB市営のC会館において市の活性化のための催事を開くことを計画し、B市長からC会館の使用許可処分(処分①)を受けた。
しかし、Aはその使用許可申請書に記載していた催事の内容を変更し、無断で他の目的で使用したことが判明した。
この事実を見たB市長は、条例に基づいて処分①を取り消す旨の処分(処分②)を行った。
この場合、次回以降も予定通りにC会館を使用するためにはどのような訴訟を提起し、どのような仮の救済の申し立てをすればよいか。
私は「取消訴訟と執行停止の申し立て」と解答し、これは概ね正解。
今回はこの解答はおいといて。
もっと根本的なところにひっかかりを感じたのです。
問題集の解説を読むと、他の訴訟類型の検討において「仮の義務付け」が挙げられていました。
「あれ?仮の差し止め訴訟ではないの?」と思ったら、「義務付け」なのです。
頭がこんがらがってしまいました。
差し止めと義務付けがわからんようになる……。
「差し止め訴訟では?」と思ったのは「処分②で使用許可の取消処分を受けたため、この取消処分を差し止める必要がある」と思ったからです。ん?「取消を差し止める」?あれ?
今思えば、この考え方はとても危険です。よく考えたらおかしい。
ここで一度「 義務付け」と「差し止め」の違いをきちんと整理する必要を感じたのです。
まず、行政事件訴訟法の条文を見てみましょう。
第37条の2
義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がない時に限り、提起することができる。
一方の差し止めの訴えの要件を見てみます。
第37条の4
差し止めの訴えは、一定の処分または裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りではない。
これらの「義務付け」と「差し止め」の要件については去年までは丸暗記で臨んでいました。
しかし、基本的な本質を理解できなければ模試にさえ対応できないことに気づいたのです。
【ケース1】
Xが公園の使用許可を市長に申請したが、不許可処分となった。
このとき、Xがすぐに公園を使用したい場合はどのような訴えをすればよいか?
ざっくりと図で書くとこのようになります。
Xが市長に対して「公園を使いたい」と申請しました。
しかし、市長がそれを許可しなかったのです。
このとき、検討する手段の候補は次の3つかなと思います。
まず検討すべきは「取消訴訟」ですね。図にある②の不許可処分を取消すのです。
しかし、ここで考えなければならないポイントが2つあります。
ひとつは、「不許可が取消しされるまでの間も、取消しされた後も、依然として公園は使えない」という点です。
そう、首尾よく完全に取消しが認められても許可処分がされない限り、公園は使えないのです。
ここでどうしても公園を使いたい場合こそ、許可処分の「義務付け訴訟」をするのです。
そのうえで「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」などの要件を満たせば「仮の義務付け」を申し立てることができます。
もうひとつの注意点はケース1では「執行停止をしても意味がない」という点です。
そもそも、なにも執行されていないのですから……。
かりに「不許可処分」を執行停止できたとしても、何も前にすすみません。
したがって、ケース1では「取消訴訟と義務付け訴訟の併合提起」と「仮の義務付け」が正解になるのです。
【ケース2】
公務員であるXが非行をはたらいたため、地方公務員法に基づき停職処分されようとしている。
このとき、Xが停職をストップさせるにはどのような訴えをすればよいか?
これも図でみると次のようになります。
この場合、Xは停職されないためにどんな手段をとれるでしょうか?
キーワードは「停職されそう」という「されそう」という文言です。
このケースでは、まだなんの処分もされていないので「取消訴訟」はできません。
もちろん「執行停止」もできません。
まだ処分されていないけれども、これからされる可能性があるということなのです。
ここで、「停職処分をしてくれ!」と自らお願いする「義務付け」は意味がありません。
そう、ここで「停職処分をやめてくれ!」とお願いする「差し止め」という手段に意味があるのです。
懲戒権者に対して「これから停職されるかもしれない処分」を差し止めるのです。
まとめると、次のようなイメージになりました。
先ほどのケースを使うとこうなります。
義務付け訴訟は「公園が使えない状態から公園が使える状態」をお願いする。
差し止め訴訟は「停職させられる状態から停職をさせられない状態」をお願いする。
なんかこう書いてみると当たり前のことですね……。
簡単な事例を覚えておくと訴訟類型が思い出しやすいので、
「不許可処分は義務付け」「停職処分は差し止め」で覚えておきます!