今回は「教団X」という小説をご紹介します!
中村文則さんの「教団X」を読了しました。
この「教団X」、実はAmazonのレビュー点数がとんでもなく低いことで有名です。
(参考記事)【アメトーーク!読書芸人】『教団X』のamazonレビューがヒドいことになっている件 – 雨が多い街だね
本作は、「アメトーーク」という番組でかなり大々的に取り上げられ、売れまくっていたようです。
ただ、私はこの小説を読んでこう思いました。
ああ、この本は途中で読むのを挫折するかたが多いかも。
まずは、簡単なあらすじを書いてみます。
主人公の楢崎は失職し無聊をかこつ生活を送っていた。
そんな折、立花涼子と出会い交際することになったが、立花は急に姿を消した。楢崎は立花を探すために友人の探偵、小林に捜索を依頼することになる。
そこで突きとめたのは松尾正太郎という思索家であった。楢崎は松尾率いる集団と対をなす「教団X」という謎の宗教団体にアプローチする展開になる。最初は単なるセックスカルト集団とおもわれた「教団X」だが、その内実は意外なものであった。
すごくざっくりと書きましたが、あらすじとしてはそれほど難しくはありません。
ただ、私は本筋ではなく細部の箇所で心をえぐられたのでその部分を紹介しようと思います。
この小説の読み応えがある箇所はぼくは2つあると思うんですよね。
一つ目は、「教団X」のナンバー2である高原の手記。
彼は、教団Xの幹部なのですが、テロ計画を起こそうとします。
教祖をだまし、信者たちを煽動する計画を立てるのです。
なぜ高原はそのような計画を立てたのか?
高原のバックボーンにその解を見いだした気がしました。
彼は過去にアフリカで武装集団に誘拐された経験があるのです。
その箇所が私の心に刺さりました。
私は恐らく、外国人として人質になるのだった。
教団X (集英社文芸単行本)より
金を払うのはNGOだろうか。国だろうか。もし交渉が失敗したら。私は考える。
私はすぐ殺されることになる。この土地での人間の命の価値は低い。なぜなら、この国では人が死に過ぎていた。飢えで死に、病で死に、内戦で死に、暴動で死ぬ。この国では人が死ぬということがとりわけ珍しいことではなくなっている。
「命の価値が低い」?
日本のような高度に発展した国家に住んでいるとその実感がまるでわかないでしょう。
命は平等のはずです。
しかし世界にはまだ「人の命の価値が低い」国家も存在しています。
BBCを見てみると、大規模な児童誘拐が組織的に行われる国があったり、餓死者が増加している国もあります。
「人が死ぬ」ということがとても身近なのです。
私もずっと日本に住んでいるのでこのような実感がわきません。
ただ、高原のように「「人の命の価値が低い」経験をすると、人生観が大転換することでしょう。
「命の価値」について考える機会が少なかったので、今回の読書を通じて考えさせられました。
もう一つのみどころはちょっと特殊かもしれません。
この567ページにわたる大作は「教団X」の教祖である沢渡の過去を読むためにあると感じました。
つまり、480ページくらいは「伏線」にすぎないのです。
この沢渡の過去はもはや「神の領域」に達しているんですよ。
なぜか?
彼は医師として特殊な経験をしているからです。
戦後が過ぎていき、医師として働き始めた頃、一つの特定された情欲に囚われた。
それはいつも、女の白い身体にメスを入れる瞬間に起こった。麻酔で意識を失った女の身体を前に私はいつも喉が渇き、陶酔したように意識が薄れた。……私の手によって、この目の前の存在はどのようにでもなるのだということ。
教団X (集英社文芸単行本)より
怖いけど読み進めてみましょう。
私が一センチ多くメスを動かすだけで、その女の動脈が切れ、血が、命が噴き出す。
女の皮膚にメスを入れていく。女の身体が開かれ、隠されていた身体の内部の活動をこの目で見る。今、この女の人生、運命、そしてこの女が助かることで今後展開していく全ての物事が私の意志に握られている。その全体を意識した時、私のメスの先はいつも微かに震えた。……私の性器は、その度に勃起することになった。
なかなか暗い情景ということになる。メスを手に女の身体を見ながら、勃起していく青白い青年。
教団X (集英社文芸単行本)より
この全能感はこの医師、沢渡しか味わえないでしょう。
そして、沢渡の「告白」はなおも続き、唖然とさせます。
これこそが「教団X」の醍醐味なのです。