今回は、すし屋を舞台とした「成りあがり」の小説「握る男」をご紹介します。
この小説は「すし職人」を目指す人ではなく、「経営者」や「フリーランス」が読むべき本ですね。
この小説は、主人公である「金森」とその後輩である「ゲソ」が寿司屋を舞台としてともに成長していく物語です。
とくに「ゲソ」が放つ珠玉の言葉が心に刺さりました。
初めて寿司屋に入門してきた「ゲソ」は16歳かそこらの子供だったのですが、彼は彼なりの人生訓を獲得していました。
金森とゲソとの会話の中でも垣間見れます。
こういう構想って年をとったから獲得できるとは限らないんですよね。
「けどカネさんだから言うんすけど、相撲界とは懇意にしといたほうがいいすよ。新両国国技館が完成したら、両国の商売は一変しちゃうんすから」
親方は支店開設に張り切っているが、そんなレベルを遥かに越えたビジネスチャンスが転がり込んでくる。そのためにも、企業や金持ちが群れをなす相撲人脈をつかんでおけば商売の幅が飛躍的に広がる。寝る間も惜しんで龍大海と遊んでいるのも、それを見越してのことだという。
「そこまで考えてんのか」
「そりゃそうですよ。一流の人脈をどれだけつかめるか。一番の鮨屋になるためには、それが勝負っすから」
「一番の鮨屋?」
思わず失笑してしまった。ゲソが目指すのは、鮨のレベルも常連客のレベルも日本一の鮨屋だそうで、16の小僧がよくぞぶち上げたものだった。
この場合は「新両国国技館」でしたが、「大阪万博」など今後予定されている大規模イベントに置き換えてみると、日本人ビジネスマンが準備するべきことが見えてくるはずです。
どの人脈と懇意にすべきか?
ターゲッティングという観点ではこれも重要ですよね。
ゲソは若干16歳にしてこのようなマーケティングセンスを持っているのです。
さらに「ゲソ」はこう続けます。
これは、鮨職人の先輩である北島さんに「お金を貸してくれ」と頼まれた金森がゲソに相談したときの場面です。
「カネさん、これだけは覚えといてください。思うがままに動かせる手下が1人いれば、そいつを使って10人動かせるんすよ。その10人が手下を作ってくれたら100人動かせるじゃないですか。で、100人動かせたらどうなるか。」
「1000人動かせる?」
「違うっす。あとはもう数がパワーになって何万人でも何十万人でも動かせるようになる。だからまずは最初にどんなキンタマを握っとくか、それが一番のポイントになるんすよ。」
〜略〜
「そういうもんなんすよ。だからとにかく、北島兄さんを金で買うつもりで貸しちゃえばいいんすよ。世の中、金より人なんすから、こいつと見定めたやつのキンタマを握れるチャンスがあったら力業で握りにいかなきゃダメなんすよ」
だいぶ前の話ですが、私が知り合いに「投資を始めたんです」と話した時の相手の第一声が、
「誰に?」
だったのです。
僕は驚愕しました。
というのも、当時の私にとって投資対象といえば「株式」や「知識」だけだったからです。
「ヒト」に投資するという発想はなかったのです。
最近になって、「ヒトに投資する」という発想が身につきつつあるのですが、この発想は今後の私にとって非常に大事だと思っています。
ゲソはどんどん頭角をあわらすこととなります。
そして、金森との関係性もいつの間にか逆転して、ゲソが金森を「支配」するようになるのです。
ゲソが社長となり金森がその部下となるのですが、以下の部分は、そのポジション転換を示す会話です。
「つまり、どっちにしても最後は社長が表舞台に立って仕切れる構造にもっていくわけですね」
金森は言った。それは違う、と即座に否定された。
「金森、ここが肝心なところだから、よく覚えとけ。表舞台に立つようなやつは馬鹿なんだ。おれの理想は、支配されていると気づかれないように支配することだ」
ゲソは子供のころから身につけた「帝王学」でどんどん成り上がっていきます。
そして、彼の行き着く先とは?
つづきはこの小説を読んでたしかめてみてくださいね。